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ひとり島旅カウンター

by miku tsuchiya

ほろほろと実りの季節の紐がほどけ、肌に刺す冷たい空気がひしひしと迫り来る今日この頃。

夏に戻りたいと思うけど、秋が来て、冬を耐えて、春を過ぎるからこそ

戻りたい夏を迎えられるのでしょう。

ならば、今年の夏のような焦がれ記憶に残る夏をまた来年も迎える為に

この冬を耐え、春を過ぎて夏を待ちましょう。

夏という季節は何でこんなにも愛おしいのでしょうか。

秋に感じる夏への後ろ髪引かれる思い、冬に感じる夏への憧れ、春に感じる夏への期待。

どんな季節にも夏の残像が心にひとかけらあるものです。

今年の夏は特別でした。

たくさんの夏の扉が目の前に表れたので、

取り敢えず自分の手が伸びるドアノブには手を掛け開けました。

ずっと先の未来に繋がってるかも知れない、輝きに溢れた情景が広がっている扉を開けました。

夏と島の温度に背中を押されて、ちょっと危なっかしい扉も開けました。

そして今年の夏に行った鹿児島県 奄美群島にある与論島のとあるごはん屋さんの扉も開けました。

大きめのずっしりとした木製のドアを全身の力を込めて押すと、

カランカランと心地の良いドアベルが鳴りました。

何度もひとり旅をしているけれど、いつになっても初めてのお店のドアを一人で開ける時の微かな緊張感はなくなる事がありません。

この時も、微かな緊張感を身にまとい、恐る恐るお店に入って行きました。

店内は程よく暖かな照明で、全体的に木製の家具が多く、とても居心地の良い空間でした。

そして、考え過ぎな私の緊張は出迎えてくれたお店を切り盛りしているご夫婦の溢れる笑顔で瞬時に消え失せ、その溢れる笑顔のご夫婦は、辺りをキョロキョロ見る私をカウンターに通してくれました。

既にそのカウンターには、2人の若い女の子が座って楽しそうに会話を弾ませていました。

その時はお友達同士で来たのかなと思っていましたが、このお店のカウンターでつい30分前に初めて出会った同士という事でした。

この2人と暫く自己紹介を兼ねて何でひとり旅をしているのかを語り合っていると、もうひとり女の子がカウンター席にやって来て会話に加わりました。

あれよあれよという間に一人旅をしている人たちが同じカウンター席に4人集まり、それぞれの旅の形や人生の形を思い思いに話し合うというこれぞ一人旅という充実この上ない時間を過ごしたのです。

最終的には5人ひとり旅が集まりましたが、私はこの後、島で昼間に出会った人と一緒に星を撮影しに行く約束があったので、最後に来たひとりの女の子とは挨拶と自己紹介をしたくらいでした。

こんな時、私がよく話をするのが島の星空が凄いから夜に外に出て空を見上げてほしいという話です。

自分が今まで撮ってきた星空の写真を見せながら話すのが鉄板スタイルです。

私自身が星空を撮影しに行く時にいつも感じていることなのですが、

昼間の青い空や青い海には観光客がわんさかと群がるのに、夜の壮大な星空には驚くほどに人が集まらないのです。

何でこんな想像を超えた景色を誰も見に来ないんだろう?

昼間のあの数の観光客は、夜は何してるの?

そんな問いを投げかけると、昼間はアクテビティを楽しんで夜はお酒飲んで疲れて寝ちゃうんだよと言われました。

そうだよな。南の島に来たら、大半の人は夜より昼間の絶景なんだろうなと納得する部分もあります。

そんな私の島の星空が凄いんだよという大騒ぎは人の心を繋ぐ時があります。

この時の与論のカウンター席でも、ひとりの女の子が興味を持ってくれ、どうすれば天の川の写真が撮れるのかを真剣に聞いてきました。

私は最低限に必要なカメラ機材とそのカメラの設定、あとは運であることを話しました。

最初から難しいと思われるのは嫌なのでカメラの設定の話はあまりしたくないのですが、その女の子は設定の話を聞いてくる程に真剣に興味を持ってくれたようでした。

そしてこの後この女の子は、人生初の天の川を与論島で見たようです。

ひとり島旅のカウンター席は人と人を繋ぎます。

この時の与論島のカウンター席を今改めて思い出すと、

このお店を切り盛りしているご夫婦の人の繋ぎ方は本当に凄かったなと思います。

お店のご夫婦もひとり旅5人の会話に程よく入りながら、カウンター席で5人一列に並んでいるので端っこの人が孤立しないように会話を上手く混ぜたり広げたりしていました。

カウンター席にひとり旅を5人集めて、5人のそれぞれの人生を交差させて繋いで、

人生初の天の川を見せて感動させて、

このカウンター席での思い出をかけがえのないものにさせたのは

紛れもなくこのお店を切り盛りしているご夫婦でした。

微かな緊張感で手を伸ばした与論島のごはん屋さんの扉、

その先には星と星とを繋いで星座を作り物語を創造した古代ローマの人たちのように、

人と人とを繋いでそれぞれの人の物語を広げ、色彩を加えてくれたご家族がいました。

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